子ども主体保育の広がりと現場の不安
近年、保育所保育指針にも明記されているように、子ども主体の保育は大きな流れとなっています。
自由な遊びや自発的な活動を大切にすることで、子どもは自ら考え、選び、行動する力を育みます。
しかし現場の保育士からは、こんな声が多く聞かれます。
▶「安全が心配」
▶「重大事故のリスクが怖い」
そうです。「見ていなかった」では済まされないのが保育現場。
保育所での重大事故は、園全体の責任であり、決して他人事ではありません。
保育所保育指針が求めるもの
指針は「子どもの主体性を尊重すること」を強く打ち出しています。
• 自由な活動
• 子どもが選ぶ時間
• 個別の発達支援
ですが、その一方で「安全配慮」についても当然求められています。
つまり、子どもの自由と安全は二項対立ではなく両立させるものなのです。
安全管理=人数ではない
「保育士が多ければ安全」という考えは誤解です。
実際の事故は、人数が十分に配置されていても起こります。
その背景には──
• ヒューマンエラー
• 見逃し
• 思い込み
といったリスクが潜んでいます。
だからこそ、「安全管理」を“人数”の問題として終わらせず、専門職としての視点共有が必要です。
実際のヒヤリ・ハット事例と安全管理の工夫
園庭での自由遊び
園庭で自由遊びをしていた時、滑り台の下で遊んでいた子どもに、上から足を滑らせ勢いよく滑ってきた子がぶつかりそうになったことがありました。
その場には保育士もいましたが、視線が一点に集中してしまい「死角」が生まれていたのです。
幸い直前で声をかけて未然に防げましたが、この経験は「見ている」と「見渡す」の違いを痛感するきっかけとなりました。
午睡の時間
午睡の時間も安全管理の盲点になりやすい場面です。
多くのガイドラインでは「5〜15分おきの確認」が推奨されていますが、私の園では必ず1分間隔でのチェック係を配置していました。
なぜなら、子どもの命に関わる場面では「5分後」では遅いからです。
1分の差で助かる命がある──その強い思いから、徹底した仕組みを導入しました。
結果として、午睡時のヒヤリ・ハットは大幅に減り、保育者の心理的安心感も向上しました。
「手伝わない」という安全管理
もう一つ、私が徹底していたルールがあります。
それは、子どもが自分の力でできない遊びは決して手伝わないということです。
例えば──
• 高い場所に上がりたいけど自分で登れない
• ブランコを自分で漕げない
こうした遊びを「やりたい!」と子どもが希望しても、大人が手を貸してしまうと必ず事故のリスクが高まります。
そして、その瞬間から保育士がずっと付き添わなければならなくなり、他の子どもたちへの安全配慮が手薄になります。
自分の身の丈に合わないことをあえてやらせない。
それもまた、安全管理と主体性の両立における重要なポイントだと考えています。
安全管理の再定義
安全管理とは「マニュアルを守ること」ではなく、
状況を的確に捉え、判断できる視野をチームで共有することです。
• 全体を見渡す係を置くこと
• チーム保育の仕組みを再構築すること
これが、子ども主体保育を停滞させずに進めるための必須条件です。
結論 ― 自由と安全の両立こそ質の高い保育
子ども主体の保育を守るためには、安全管理が不可欠です。
自由と安心は対立するものではなく、両輪であり補完関係にあります。
保育の質は「安心」の上にしか成り立ちません。
だからこそ、安全と自由の両立を保育所全体の共通意識にすることが、これからの時代に求められる保育の姿だと私は確信しています。