先日私は、『気が済むまで抱っこ』と言うタイトルのブログを書かせていただきました。
これは親や保育者が、ごく自然に当たり前のように日常行っている抱っこを、見直していく内容のブログでしたが、保育者が抱っこをするほとんどの場合は子どもが泣いている時です。
こんな時保育者は、殆どの場合何も考えずに“可哀想だから何とか子どもの助けになってあげたい!“と言う感情に駆られて、そしてさらに女性の場合は強い母性と言う本能に駆られて抱っこをすることになります。
そこで今回は、前回の“気が済むまで抱っこ“のブログを補完する内容の「子どもは(人は)なぜ泣くのか?」と言う”泣く”行為を脳科学の観点から深掘りし、次に”保育者は泣くことをどう見るべきなのか?”について問題提起をさせて頂き、最後に私が日々の保育現場で行っている“ひそひそ面談法”と言う実践例をご紹介して行きたいと思います。
人(子ども)はなぜ泣くのか?
先ずこの質問に対して、子どもの泣く場面を思い浮かべてみたいと思います。
私たち保育者は、日常の教育現場で子どもたちと対峙していると、実に子ども達は本当によく泣きます。
0歳児から1歳児クラスなどは、1人泣き始めると次から次へともらい泣きして、クラスの中が一気にカオス状態になってしまう場面に遭遇された方もいらっしゃることでしょう。
おもちゃを取られた〜!叩かれた!噛まれた!転んで痛い〜!と、こんな辛い・悲しい・痛いと言うネガティブなきっかけで泣き始めますが、これをきっかけに”ママに会いたい〜!”と発展してしまう場合もあります。
泣くと言う行為は、これらネガティブなきっかけだけではなく、嬉しい時や感動した時と言うポジティブなきっかけで泣いて涙を流すこともありますが、保育所にお預かりしている子ども達の場合は、毎日大好きなお母さんと離れて生活していますから、常にお母さんと会いたいと言う感情を抑え込まれているので、何か少しのきっかけで感情が高ぶると泣いて涙を流すことが多いのかも知れません。
ではこの泣くと言う行為は、なぜ人に起きるのでしょうか?この点を以下の脳科学の観点からその理由を述べていきたいと思います。
①自律神経のバランスを取る自然な働き
泣くと言う行為は先程の子どもの例でもわかるように、日常加えられているストレス状態になっている時に、極度の負荷(痛み・悲しみなど)が掛かり一気に気持ちが高揚すると、自律神経の交感神経が優位になります。すると人間の体は、上がりすぎた交感神経の働きを何らかの形で発散させ心のバランスを取るようにできているのです。
そして泣いた時に出る涙には、コルチゾールと言うストレスホルモンを軽減させる作用があるので、人は泣くことによって高ぶった感情を発散させ、今度は反対に副交感神経優位の体にバランスを取ることができているのです。
よって抑え込まれた感情は泣くことで発散され、その後落ち着いて冷静になれる・・・となり、人は泣く事により自然に心のデトックスを行っているのです。
②痛みの緩和効果
泣いたときの涙の中には、エンドルフィンという脳内麻薬とも言われるホルモンが含まれていることがわかっています。
このエンドルフィンは、ランナーズハイで代表されるような、多幸感・恍惚感を生み出します。
またエンドルフィンは、苦痛を和らげる鎮痛作用もあることがわかっており、この鎮痛効果は一説によるとモルヒネよりも大きいと言われています。
ですから子どもは転んで痛い思いをした時、泣いて涙を流すことにより本能的に痛みを和らげているのかもしれません。
③安眠効果
私たちは思いっきり泣くと、めちゃくちゃ疲労感を感じたことがあるかもしれませんが、子どもは大泣きをするとその後“泣き寝入り”と言って、保育者の胸で“スー”っと寝ることがよくありますね!
先ほど自律神経のバランスの所でも書きましたが、人は極度のストレスが加わると、緊張状態の交感神経優位状態から、泣くことによって副交感神経優位にバランスを取ろうとします。
人は泣いて涙を流すことにより、疲労感を感じ、副交感神経優位の状態となり、安眠を生むことになるのです。
また熟睡ができたことにより、神経の安定や安心感・平常心が得られ、さらに幸せホルモンと言われているセロトニンの分泌も促すことができているのです。
保育者は泣くことを否定してはいけない
以上のように脳科学的な見地から見ると、泣く事・涙を流す事は、子どもに降り掛かり締め付けられているストレスを解放・発散させるためにとても重要な体の自然な機能であり、心理的な効果だけにとどまらず身体的な効果もあげられるものであることがわかりました。
ですから私たち保育者は、このように子どもの泣くと言う行為を、ただ”かわいそう〜!”と言うような感情だけで捉えるのではなく、脳科学的な見地に立って考え、子どもと対峙していかなければならないかも知れません。
昔から“赤ちゃんは泣くのが仕事だから”と言われ、泣くことによって成長すると言う子育ての見方がある一方、保育者の価値観の中には、赤ちゃんが泣いたらすぐに抱っこをして泣き止ませることが大切だと言う考えもあると思います。
さて、皆さんはどっちよりの考えをお持ちでしょうか?
赤ちゃんがその後成長し、私たち保育者は様々な子どもが泣いている様子を見てどのように思うでしょうか?
大きくなってもメソメソ泣いている子がいると“いつまでも泣いていないでシャキッとしなさい!情けないなぁ〜!”なんて葉っぱをかける保育者がいるかもしれません。
さらに子どもが大きくなると、子ども同士の中でもメソメソ泣いている子に対して、馬鹿にする子が出てきたりして、“泣く事は悪いこと・恥ずかしいこと”と言う価値観を子どもの頃に植え付けられた方もいらっしゃるかもしれません。
かく言う私も小さい頃は泣き虫で友達から馬鹿にされ、それがきっかけで“泣く事は悪いこと・恥ずかしいこと”と教えこまれ、刷り込まれてきた人の一人と言えます。
ですから保育所を始めた頃の私は、メソメソ泣き続ける子に対しいつまでも泣いてるんじゃない!と叱咤激励する保育者でしたし、他の保育者が抱っこしてばかりいるのを見ると、”抱き癖がつくし保育者が抱っこばかりしていたら保育が回らないから下に下ろしなさい!”などと助言をしている園長でした。
しかしその頃から20年の時が経ち、私の保育も随分と変わってきました。
先の脳科学からの見地も手伝ってか、泣くと言うことを肯定的に捉えるようになってきましたし、泣きたいときには思いっきり泣かせてあげるように勧める事の方が望ましい事なんだ!と思うようになってきました。
このような考えから、私がここ数年の保育現場の中で編み出した、子どもが泣き叫んでいるときの対処法を以下に紹介してみたいと思います。
ひそひそ面談法のすすめ
今の私が保育現場の中で子どもに対して行っている抱っこは、私が数年前保育士の試験を受けるため、保育の歴史を学んでいる時に出会った保育の偉人、石井十次さんの岡山孤児院12則の中の密室主義にヒントを得た子どもとの対峙方法です。
この密室主義から得たヒントとは、“子どもを褒めることも叱ることも、子どもと2人だけで行う”と言う考え方です。
特に私たち保育者は、子どもを褒めたり叱ったりする場面が数多くある仕事ですから、これらのことを他の子の前で行うと、その子にとっても周りの子にとっても良い影響が与えられないことがあることを実感しています。
こんな時、この密室主義と出会い、その考えにピンときて以下の方法で実践してみると、思った以上の効果を上げることができました。
現在この“ひそひそ面談法”は当方の保育心理カウンセラーの技術の1つとしてお伝えしているテクニックですので、ぜひ皆様も参考にしていただけたらと思います。
①ひそひそ面談法の手順
まず保育者は、問題が生じた子(喧嘩の被害者であったり、転んで泣いている子)を自分が立て膝で座った状態で優しく抱きしめます。
この時に泣いて涙や鼻が出ていたら、ティッシュで優しく拭いてあげます。
そして次に、優しく抱きしめたまま子どもの耳元で、低く小さな声で次に紹介する“子どもにとって心地よい言葉”を投げかけます。
そして泣き止んできたら最後に、自立支援の言葉を投げかけて抱っこを解き放ちます。
この“子供にとって心地よい言葉”を次に順を追ってご紹介します。
②子どもにとって心地よい言葉
→痛かったの?悔しかったの?悲しかったの?
→気持ちはよくわかるよ!泣きたかったらいっぱい泣きな!泣く事は悪い事じゃないんだよ!ゴリさんも辛い時は泣くんだから一緒だよ!
→ゴリさんはあなたのことが大好きだよ!味方だから、いつでもそばにいるから安心しな!
→もう泣き止んできたね!痛くなくなってきたかい?元気になってきた?強いね!
→誰でも泣いて泣きやんだ時、お兄ちゃんになれるんだよ!泣き止むことができたからあなたも一つお兄ちゃんになったね!
→元気になったね!ゴリさんのところに来てくれてありがとう!辛いことがあったらいつでもゴリさんが抱っこしてあげるからいつでもおいでね!もう遊べるようになったかな?
よし行け!!
と言って私は、子どもにグータッチをします。また脇の下をコチョコチョとくすぐって、笑って送り出すこともします。
③ひそひそ面談法のメリット
この語りかけは、苦しんで泣いている子に対し、返事がイエス(うなづき)しか出てこない聞き方になっているため、子どもが繰り返し自己肯定される事で心がどんどん上向きになってきます。
その為、子どもの心が極度に打ちひしがれてる時には、すぐに心を高揚させる事が出来る最速の効果を生むことができます。
そしてこのひそひそ面談法の最大のメリットは、対する子ども一人ひとりとの強い信頼関係が築ける事と言えるでしょう。
保育者と子どもとの強い信頼関係が築きあげられてくると、保育者が必要なお願いをする時、よく耳を傾けてくれるようになります。
また更にこの方法は、他の子に対する影響がないので、トラブルの二次被害を避けることもできます。
私はこの方法でトラブル続きの園の子どもたちの心を癒すことができるようになった時、時の経過とともに園の中の落ち着きが目に見えて促進されていったことを体験する事ができましたので、貴方も是非試してみてください。
泣く事は子供が成長する上で重要な体験
さて今日はここまで、子どもがなぜ泣くのか?と言う点を脳科学の観点から考察し、私たちが一般的に来てしまいがちな子どもが泣くと言う行為が、決して悪いことや恥ずかしいことではなく、ひそひそ面談法などの方法を用いることにより、泣いているときの対応によっては、むしろ子どもの自己肯定感を上げていくための良いきっかけにもなることがわかってきました。
これらのことから私たち保育者は、子どもたちのトラブルによって生じる泣くと言う行為を、ネガティブに大げさに捉えるのではなく、トラブルは子どもたちが成長していく上でとても重要な体験なんだ!と捉えることが出来るようになったのではないでしょうか?
脳科学から見た泣くと言う行為・涙の効果は、その子にとって溜まったストレスを解放させてくれる大切な生理的な作用であり、子どもに降りかかるストレスに鈍感になるための、心の防衛本能であると考えることができるかもしれません。
ですから私たち保育者は、泣くと言う子どもの行為をもっと肯定的に捉え、子どもが泣いているときには思いっきり泣かせてあげれるように勧めていきたいと思います。
とは言え子どもが泣いて苦しんでいるのを見ると、私たち保育者にとってみても心痛む時であると思いますので、ぜひともこのたび紹介させて頂いた「ひそひそ面談法」を用いて子どもの心を癒し、さらに子ども達一人一人との強い信頼関係を築きあげていただきたいと思います。
最後に...
今日のこのブログが、あなたの明日の保育にきっと役に立てていただけることを心から願っています(^^)