私は保育士研修の中で、よくこんな問いを投げかけます。
「抱き癖って、本当にあるのでしょうか?」
すると、多くの保育士さんが少し困ったような顔をします。
なぜなら、保育の現場では今でも、
「抱っこばかりしていると抱き癖がつく」
「ずっと抱っこしていたら自立できない」
「一人を抱っこしていたら保育が回らない」
そんな言葉を耳にすることがあるからです。
もちろん、その背景にある保育士さんの気持ちも分かります。
子どもの自立を促したい。
他の子どもたちも見なければならない。
限られた人数で保育を回さなければならない。
保育現場は、一人の子だけをずっと抱いていられるほど単純ではありません。
だから私は、
「もっと抱っこしてください」
と保育士さんに言いたいわけではないのです。
私が考えてほしいのは、
抱っこの「量」ではなく「質」。
そして、
「抱き癖がつくか、つかないか」ではなく、
その子の心は満たされたのだろうか?
ということなのです。
・抱き癖の正体
保育現場は、本当に忙しい場所です。
一人の子どもを抱っこしながら、別の子どもを見る。
次の活動を考える。
保護者への伝達事項を頭の中で整理する。
「あの子は大丈夫かな?」
「あっちで何か起きていないかな?」
そうやって、いくつものことを同時に考えながら保育をしています。
だから気がつけば、
身体はその子を抱っこしているのに、心は別の場所にいる。
そんなことが起こります。
私はこれを、
「ながら抱っこ」
と呼んでいます。
「ながら抱っこ」は、保育士が悪いから起こるのではない
ここで誤解してほしくないことがあります。
私は、「ながら抱っこをする保育士はダメだ」と言いたいわけではありません。
むしろ逆です。
一生懸命だからこそ、
「あの子も見なければ」
「これもやらなければ」
「次の準備もしなければ」
と考えてしまう。
真面目で責任感の強い保育士さんほど、「ながら抱っこ」になってしまうこともあるのではないでしょうか。
だから、保育士さんを責めても何も変わりません。
考えたいのは、
限られた時間の中で、どうすれば子どもに安心を届けられるのか?
ということです。
・子どもは抱っこを求めているのではない
私は、子どもが何度も抱っこを求めてきた時、
「また抱っこ?」
「抱き癖がついているのかな?」
と考える前に、もう一つ考えてほしいことがあります。
もしかすると、その子が求めているのは、
抱っこという行為そのものではないのかもしれない。
私はこう考えています。
子どもは抱っこを求めているのではない。
安心を求めているのです。
「先生、私を見て」
「先生、ここにいるよ」
「先生、私は大丈夫?」
「先生のそばにいてもいい?」
そんな願いを、まだ十分に言葉にできない子どもたちが、
「抱っこ」
という形で表現しているのかもしれません。
・何度も抱っこを求めるのは「わがまま」なのか?
抱っこして降ろす。
また来る。
抱っこする。
また来る。
これが何度も続くと、大人はつい、
「さっき抱っこしたでしょう?」
と思ってしまいます。
でも私は、そこで考えてみたいのです。
その子は、本当に安心を受け取れたのだろうか?
身体は抱かれていた。
でも先生の目は違うところを見ていた。
先生の頭の中は次の活動のことでいっぱいだった。
もちろん、現場では仕方のないこともあります。
それでも子どもの側から考えてみれば、
「まだ満たされていない」
ということがあるのかもしれません。
何度も抱っこを求める姿を、すぐに「わがまま」や「依存」と捉えるのではなく、
「この子はいま、何を求めているのだろう?」
と考えてみる。
そこから保育は変わっていくのだと思います。
・抱っことは「行為」ではなく「関係」
抱っこというと、
「子どもを腕の中に抱えること」
だと思われがちです。
でも、私はそれだけではないと思っています。
抱っこは、
大人と子どもの間で交わされるコミュニケーションです。
だから大切なのは、
「何分抱いたか」
「何回抱いたか」
ではありません。
その時間に、
どれだけ子どもの心とつながれたのか。
私は、そこを大切にしています。
心を抱く
では、忙しい保育現場でどうすればいいのでしょうか。
ずっと抱っこする必要はありません。
私は、
30秒でもいい
と思っています。
その30秒だけは、その子を見る。
目を合わせる。
呼吸を感じる。
名前を呼ぶ。
そして、
「あなたがいてくれて嬉しいよ」
という気持ちで抱く。
私は、抱っこの「時間」を増やすよりも、
抱っこの「密度」を高める。
その方が大切なのではないかと思っています。
・「愛と感謝の抱っこ」とは
私はこれを、
「愛と感謝の抱っこ」
と呼んでいます。
何かができたから抱っこするのではありません。
泣き止ませるためだけでもありません。
言うことを聞かせるためでもありません。
ただ、
「あなたがいてくれて嬉しい」
「あなたは大切な存在だよ」
「ここにいていいんだよ」
そんな思いを身体で伝える。
抱っこは、
子どもの存在そのものを歓迎するコミュニケーション
にもなるのだと思っています。
抱っこの「密度」を高めるヒソヒソ面談法
私は研修の中で、そのための具体的な関わり方の一つとして、
「ヒソヒソ面談法」
をお伝えしています。
抱っこしながら、耳元で優しく語りかける。
大きな声で周りの子どもたちにも聞こえるように話すのではなく、
その子だけに届く声
で話します。
「嫌だったんだね」
「先生、ちゃんと分かってるよ」
「大丈夫だよ」
「あなたのこと、ちゃんと見ているよ」
ほんの短い時間でも、
「今、先生は私だけを見てくれている」
と感じられる時間をつくる。
ヒソヒソ面談法は、抱っこの時間を増やすための技術ではありません。
抱っこの密度を高めるための技術です。
忙しい保育現場だからこそ、私はこうした関わり方が大切だと考えています。
「ながら抱っこ」から「愛と感謝の抱っこ」へ
私は保育士さんたちに、
「もっと頑張ってください」
と言いたいのではありません。
保育士さんたちは、もう十分に頑張っています。
だからこそ、
頑張る量を増やすのではなく、関わりの質を変えてみる。
忙しい現場だからこそ、限られた時間の中で子どもに安心を届ける方法を知ってほしいのです。
抱っこの時間を何倍にも増やす必要はない。
たった30秒でもいい。
その30秒だけ、
目の前の子どもに心を向けてみる。
それだけでも、抱っこの意味は変わってくると思っています。
「抱き癖」よりも考えてほしいこと
「抱っこすると抱き癖がつく」
そんな言葉を聞いた時、私はいつも思います。
本当に考えなければならないのは、
抱き癖がつくかどうかではない。
その子が、
安心できたのか。
満たされたのか。
「私はここにいていい」と感じられたのか。
そこなのではないでしょうか。
何度も抱っこを求めてくる子どもがいたら、
「また抱っこ?」
ではなく、
「まだ安心が足りないのかな?」
という見方も持ってみる。
すると、同じ子どもの姿でも、見え方が変わってきます。
まとめ
抱っことは、ただ子どもを泣き止ませようとする行為ではありません。
抱っことは、
「あなたがいてくれて嬉しい」
という思いを身体で伝えるコミュニケーションです。
だから私は、保育士さんに伝えたいのです。
抱っこの量ではなく、質を大切にしよう。
抱っこの時間ではなく、密度を高めよう。
そして、
「ながら抱っこ」から「愛と感謝の抱っこ」へ。
抱き癖がつくのではない。
もしかすると、
安心がまだ十分に届いていないだけなのかもしれない。
だからこそ、
子どもを抱くのではない。
子どもの心を抱くのだ。
そんな「愛と感謝の抱っこ」が保育現場に広がり、
一人でも多くの子どもの心に、
「私は大切にされている」
という安心の土台が育まれていくことを、私は願っています。
「心」を理解する保育士へ
「抱っこしてほしい」
「イヤ!」
「やりたくない」
「叩く・噛む」
「泣き止まない」
子どもが見せる一つひとつの行動には、その子なりの思いや願いがあります。
大切なのは、目の前に見えている行動だけを変えようとするのではなく、
「この子は今、何を感じているんだろう?」
「この行動の奥には、どんな願いがあるんだろう?」
と、子どもの心を見ようとすること。
私は、それが保育の大切な土台だと考えています。
保育心理カウンセラー養成講座では、心理学やカウンセリングの学びを保育現場につなげながら、
子どもの心はもちろん、保護者の心、そして保育士自身の心についても深く学んでいきます。
知識を覚えるだけではなく、日々の保育の中で、
「この子はなぜ、こんな行動をするんだろう?」
を考えられる保育士へ。
そして、行動だけではなく、その奥にある“心”に寄り添える保育士へ。
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