教育の目指すところは子どもの自立にあると、私は思っています。
保育所であるならば、眠たい時に用意された環境の中で、自分で床につき寝ることができ、自然に機嫌よく目覚められる事。食事であるならば、食べたいもの食べられる量を楽しく食べることができる事。排泄であるならば、1人で排泄が出来きれいに後始末が出来ること。
他にも生活レベルで言えば、着替えが1人でできるとか、身の回りの支度や清潔を保てるとか(歯磨きができるか?お風呂に1人で入れるか?)などがありますね。
この生活レベルでの自立に対する目に見える支援は、子どもの成長とともに成果を上げる事はできると思いますが、次に挙げる人間関係の自立はなかなか難しいと感じている人が居るかも知れません。
トラブルが起きた時でも、自らの気持ちを相手に率直に伝えられて納得のいく仲直りが出来、理不尽なストレスが加わった時でも自分の機嫌を自分で取ることが出来るようになる事・・・これは相当難しい自立と言えるでしょう。
なぜ難しいかと言うと、教え手(支援をする保育者)自身が自分の機嫌を自分で取ることができないと言う現実があるからなのです。
英語がしゃべれない人に、英語を教えることができない様に、上手な人間関係の作り方ができない人に、上手な人間関係の営み方を教える事は出来ません。
ですから人間関係の自立ができていない保育者には、お互いに納得のいく仲直りが出来るように、戦うべきか?(話し合いも含め)逃げるべきか?我慢をするべきか?どれをどのように行えば良いかを支援してあげることなどできないでしょう。
子どもの心の成長で、トラブルが生じた時の人間関係の回復能力は、7歳頃までに出来上がると言われているそうです。
と言う事は、ほぼ未就学児(保育期間中)の内に対人関係能力は決まってしまうと言うことになるわけで、特にその方法を支援する最も重要な時期は、人間関係の自立(自分の機嫌を自分で取れることができる)ができている保育者が担わなければならないことになるでしょう。
ですから私は、保育者の対人関係の自立(対人関係のストレスが生じたとき自分の機嫌は自分で取ることが出来るようになること)が、これからの日本を支える子どもたちを育てていく上でとても重要なポイントであると思っています。
この「自分で自分の機嫌を取れるようになること」は、言い方は少し変わりますが保育所保育指針の中にも3、3歳時以上児の保育に関するねらい及び内容の、イ、人間関係の(ウ)内容の取り扱いの④と⑤に、以下のように書かれています。
『④〜特に、人に対する信頼感や思いやりの気持ちは、葛藤やつまずきをも体験し、それらを乗り越えることにより次第に芽生えてくることに配慮すること。
⑤〜子どもが保育士等との信頼関係に支えられて自己を発揮する中で、互いに思いを主張し、折り合いをつける体験をし、決まりの必要性等に気づき、自分の気持ちを調整する力が育つようにすること。』
指針がここで論じられている『自分の気持ちを調整する力が育つようにすること。』がまさに『自分の機嫌を自分で取ることができるようになること』と言えるのではないでしょうか?
そしてこの特質が育っていくためには、『葛藤やつまずきを体験し、それらを乗り越えることにより次第に芽生えてくること』や『自己を発揮する中で、互いに思いを主張し、折り合いをつける体験をし、決まりの必要性等に気づくこと』と言った幼児期に於ける体験が重要である事が述べられています。
ですから私達保育者は、子ども同士の人間関係に於ける喧嘩等の体験を止めるのではなく、極力見守る姿勢で保育してゆきたいと思います。