2026年10月9日、岡山市の認可保育施設に勤務する男性保育士が、園児への暴行容疑で逮捕されたというニュースが報じられました。

報道によると“10月7日の寝かしつけの際、男児の衣服をつかんで引っ張り、床に押し倒して首を手で押さえつけるなどした疑いがある”とのことです。

母親が男児から話を聞き、警察に相談したことで発覚したと報じられています。

保育士は容疑を否認しているという事ですが、私が最も気になったのは、

保育士が語ったとされる次の言葉です。

「保育士として許される範囲のこと」

私は保育士が語ったこの言葉に、今の保育業界全体の問題があるのではないかと思っています。

今日は、この「保育士として許される範囲のこと」について、
今回も、保育所保育指針を土台に考えてみます。

1.不適切な保育はなぜ繰り返されるのでしょうか?

このような問題の背景には、次のような要因が考えられます。

  1. 子どもを従わせることが保育だという固定観念
  2. 保育士自身が感情をコントロールできなかった可能性
  3. 一斉保育や日課を優先する環境
  4. 不適切な保育を見直せない職場風土
  5. 保育の専門性に対する理解不足

今回の報道では、約20人の園児の寝かしつけを、一人の保育士が担当していたと報じられています。

・保育士の人数が足りなかったのではないか?

・一人で20人もの子どもを担当することに、無理があったのではないか?

・園長は何をしていたのか?

そうした疑問が生まれるのも当然でしょう。

職員配置や労働環境の改善は重要です。

しかし、保育士の人数を増やすだけで、不適切保育がなくなるわけではありません。

行為をした本人の責任、園長や設置者の管理責任、組織や制度の問題を、それぞれの立場と権限に応じて考える必要があります。

「問題は組織全体で生み出されることがある。しかし、責任はそれぞれの立場と権限に応じて明確にしなければならない」

そのうえで、私たち保育者自身にも問いかけたいことがあります。

私たちは、学び続けているでしょうか。

2.保育の「当たり前」を問い直す

かつての保育所では、決められた時間に全員で活動し、食事をし、午睡をする一斉保育が広く行われてきました。

集団で同じ体験をすることには、仲間と協力する楽しさを学べるという良さがあります。集団一斉保育そのものが悪いわけではありません。

問題は、日課を守ることが優先され、子ども一人ひとりの思いや発達が尊重されなくなることです。

例えば、お昼寝の時間になっても眠りたくない子どもがいたとします。

「みんな寝ているんだから、あなたも寝なさい!」

「静かにしていなさい!」

時には、厳しく叱られながら、眠ることを求められてきた子どもたちもいたでしょう。

しかし、子どもが眠りたくないと思うことは、決して悪いことではありません。

「子どもが自分の意思を持つようになったのではありません。子どもは昔から、自分の意思を持っていたのです」

私はこの言葉に深く納得しました。

ただ、その意思を大人がどれだけ受け止め、尊重してきたのか。

そこが問われているのです。

保育所保育指針は、すでに変わってきています。

保育所保育指針は、1990年(平成2年)の改訂においても、子どもの主体性や一人ひとりの発達を尊重する方向へと見直されてきました。

その後も改訂を重ね、現在では、

子どもの人権や人格の尊重、主体性を大切にした保育が明確に示されています。

ところが、指針が変わっても、現場の保育が同じように変わってきたとは限りません。

「昔から、こうしてきたから」

「先輩から、こう教わったから」

「うちの園では、これが当たり前だから」

そんな理由で、今までの保育を続けていることはないでしょうか。

近年、子ども主体の保育や「こどもまんなか」という考え方が広がってきました。

一方で、従来の日課や集団の秩序を優先する保育観から、なかなか抜け出せない現場もあるのではないでしょうか。

しかし、ここで誤解してほしくないことがあります。

子ども主体の保育が正しくて、一斉保育が古くて間違った保育だと、決めつけてはならないのです。

大切なのは、どの保育方法を選ぶかということ以上に、その保育が子どもの人権や人格を尊重し、発達にふさわしいものになっているかどうかです。

子ども主体という言葉を掲げていても、子どもの思いを受け止めていなければ、適切な保育とはいえません。

逆に、一斉活動であっても、一人ひとりの意思や発達を尊重した保育は可能です。

だからこそ、保育方法の優劣を論じる前に、私たちが立ち返らなければならないものがあるのです。

それが、保育所保育指針です。

3.保育所保育指針を共通の土台にする

私は、保育所保育指針を学ぶとき、そこに書かれている内容を三つに分けて考えることが大切だとお伝えしています。

「遵守事項」「努力義務」「裁量事項」です。

保育所保育指針には、必ず守らなければならない事項があります。

一方で、実現に向けて努力することが求められる事項や、保育者の専門的な判断に委ねられる事項もあります。

これらを区別せず、指針に書かれていることをすべて義務として押しつけることも、適切ではありません。

どのような保育方法を選ぶにしても、

外してはならない基準があります。

保育所保育指針第1章1(5)「保育所の社会的責任」には、次のように記されています。

「保育所は、子どもの人権に十分配慮するとともに、子ども一人一人の人格を尊重して保育を行わなければならない。」

また、第1章2では、子どもの生命の保持と情緒の安定を図ることが保育の基盤として示されています。

今回の事件について考えるときも、単に「どうすれば子どもを眠らせられるか」を問うのではなく、

その子の人格は尊重されていたのか。

生命と心の安全は守られていたのか。

という視点に立ち返らなければなりません。

保育所保育指針は、誰かを一方的に批判するためのものではありません。

自分たちの保育を振り返るための共通の土台です。

4.午睡も、一律ではなく一人ひとりに合わせる

2023年5月16日のこども家庭庁「幼児期までのこどもの育ち部会(第2回)」では、子どもの午睡について研究報告が行われました。

全国の幼保連携型認定こども園6,545園を対象とした調査では、2,229園から回答があり、回収率は34.1%でした。眠りたくない子どもも一緒に布団に入る対応が多く見られることなどが指摘され、一律的な午睡のあり方が問題提起されています。

保育所保育指針第1章3(2)オでも、午睡は生活リズムを構成する重要な要素としながら、睡眠時間には発達や個人差があるため、一律とならないよう配慮することが示されています。

さらに、保育所保育指針解説では、3歳以上児について、午睡を必要とする子どもと必要としない子どもが混在する場合があると説明されています。

そして、眠る子どもには安心して眠れる環境を、眠らない子どもには十分に活動できる環境や体制を整えることが大切だとされています。

つまり、

午睡の目的は、子ども全員を眠らせることではありません。

休息を必要とする子どもがいる一方で、眠りを必要としない子どももいます。

子どもの状態を理解し、環境や活動を工夫することが保育者の専門性です。

なお、この調査がすべての保育施設の実態を示すものではなく、今回報道された施設の午睡方針も分かっていません。報道内容と施設の実態を混同しないよう注意が必要です。

5.不適切な保育を組織全体の課題として考える

不適切保育は、その日に突然生まれるとは限りません。

その保育士がどのような保育を学んできたのか。

どのような先輩の姿を見てきたのか。

園長や主任がどのような保育理念を伝えてきたのか。

職員同士が疑問や困り事を話し合える環境だったのか。

こうした積み重ねが、日々の保育に影響します。

もちろん、今回の施設の内部事情を知っているわけではありません。憶測で原因や責任を決めつけることもできません。

しかし、

「保育士として許される範囲のこと」

という認識が本当にあったのなら、その考えがどこで形成されたのかを考える必要があります。

今回のニュースを、他人の問題として終わらせてはいけません。

「自分の保育にも、同じような固定観念はないだろうか」

そう問い直す機会にしたいのです。

6.園長と職員が学び合える組織をつくる

不適切保育を防ぐには、個人の努力だけでなく、園全体で学び続ける仕組みが必要です。

園長が学び、主任やミドルリーダーと共有する。リーダーが職員と対話し、学んだことを実践する。そして、実践を振り返り、必要に応じて改善する。

大切なのは、

一方的に教えることではなく、互いに学び合える組織をつくることです。

園長の役割は、職員を管理するだけではありません。

  • どのような保育を目指すのか
  • 子どもたちにどのように育ってほしいのか
  • そのために何を学び、何を実践するのか

こうしたビジョンを示し、職員と共有することも重要な責任です。

また、承認の循環も組織の土台になります。

園長が主任を認め、主任がリーダーを認め、リーダーが職員を認める。

その安心感が、職員同士の対話や子どもの存在を尊重する保育につながります。

7.研修を保育の改善につなげる

保育所保育指針第5章「職員の資質向上」では、職場内研修の充実や体系的な研修計画の作成が示されています。

研修は、保育士個人の意欲だけに任せるものではありません。

保育所として、職員が学び続けられる環境を整えることが求められています。

研修の目的は、知識を増やすことだけではありません。

自分たちの保育を振り返り、気づき、改善すること。

これが研修の大切な役割です。

不適切な保育を防ぐためには、何が禁止されているかを知るだけでなく、

子どもの発達や人権を理解し、適切な関わり方を考えられる力を育てる必要があります。

8.「お座りトン」は不適切な保育ですか?

研修では、

「お座りトンは不適切保育ですか?」

「壁ぺったんは不適切保育になりますか?」

と質問されることがあります。

こうした疑問を持つことは大切です。

ただし、

言葉だけで適切・不適切を判断するのではなく、次の点を考える必要があります。

・なぜ、子どもを座らせたいのでしょうか。

・なぜ、壁に並ばせたいのでしょうか。

子どもの安全や生活のためなのか、

それとも大人の都合を優先しているのか。

目的や場面、子どもへの関わり方を見直すことが重要です。

言葉を別の表現に変えても、子どもを無理に従わせるだけなら、保育の本質は変わりません。

大切なのは、禁止事項を覚えることだけではなく、何のために、どのような保育をするのかを考えることです。

9.不適切な保育を無くすために、適切な保育を学ぼう

不適切保育をなくすには、不適切な行為を一つずつ覚えるだけでは不十分です。

もちろん、虐待や不適切保育に当たる行為を知ることは必要です。しかし、禁止事項だけでは、子どもとの適切な関わり方を実践できません。

だから私は、こう考えています。

「不適切保育を学ぶより、適切な保育を学ぼう!」

保育所保育指針を土台に、子どもの発達と人権を理解する。

一人ひとりの思いや願いを受け止め、自分たちの保育を振り返る。

そして、よりよい関わり方を実践する。

その積み重ねが、不適切な保育の予防につながります。

保育に、すべての子どもに当てはまる一つの正解があるわけではありません。

だからこそ、

その子にとって、その場面にふさわしい関わり方を考える専門性が必要です。

10.全国の保育士さん、一緒に学びましょう!

私はこれまで24年間、保育園の運営に携わり、現在は不適切保育、メンタルヘルス、乳児保育、幼児教育、子育て支援、マネジメントなどの研修に携わっています。

一般社団法人日本夢未来保育協会でも、保育心理カウンセラー養成講座、保育認知行動療法士養成講座、保育運営改革サロンなど、保育者が学び合える機会を設けています。

私自身も、過去の保育を振り返りながら、今も学び続けています。

学ぶことは、これまでの保育を否定することではありません。

自分たちの実践を振り返り、よりよい保育へ成長させることです。

今回のニュースを、誰かを責めるだけのものにせず、自分たちの保育を見直すきっかけにしましょう。

保育所保育指針を共通の土台に、適切な保育を学び続けること。

それが、子どもたちの人権と安全を守り、不適切保育を防ぐ力になります。

全国の保育士さん、園長先生、主任さん、ミドルリーダーの皆さん。

子どもたちの幸せと、保育者自身の幸せのために、

一緒に学びましょう!

保育の学びを、明日の実践につなげよう

一般社団法人日本夢未来保育協会では、保育心理カウンセラー養成講座や保育運営改革サロンなどを通して、保育者の皆さんの学びを応援しています。

子どもの心を理解したい。

職員同士の人間関係をよりよくしたい。

保育所保育指針を、日々の保育や園運営に生かしたい。

そんな方は、ぜひ一緒に学びましょう。